since 2013

10th Anniversary WM PARTNERS

#03 専門ファンドを共同運営し、
日本のLPセカンダリー市場を切り拓く

WMパートナーズ株式会社
ディレクター
鈴木 祥平 氏 エー・アイ・キャピタル株式会社
マネージング・ディレクター
中浜 優一 氏

2023年に設立10周年を迎えたWMパートナーズ。2017年のグロース・バイアウト投資開始に続き、2021年に次なる転機が訪れます。それはLPセカンダリー投資を目的とする大規模な専門ファンドの設立です。プライベート・エクイティ(以下、PE)ファンドに対する豊富な投資実績をもつエー・アイ・キャピタル(以下、AIC)と共同し、100億円規模の組成に成功しました。

そこで今回は、両社の現場トップによる対談を設定。WMパートナーズの鈴木祥平氏とAICの中浜優一氏に、協業の経緯、約100億円の出資を集めた方法、LPセカンダリー投資の先駆的事例などについて、振り返ってもらいました。


LPセカンダリー投資:ファンドの既存出資者(LP投資家)からファンド出資持分(LP持分)を譲受する投資手法。既存出資者にとっては、ファンドの運用期間中に出資持分を流動化(現金化)できる

【ファンド設立の背景】 LPの流動化需要と供給の不均衡

2021年9月から、両社はLPセカンダリー投資の専門ファンド(ジャパン・プライベート・エクイティ・オポチュニティ2021投資事業有限責任組合)を共同運営しています。協業までの経緯を教えてください。

中浜:私たちAICは、もともと単独でセカンダリー投資事業への本格参入を検討していました。きっかけは2019年。運営するファンド・オブ・ファンズの満期が近づくなか、投資先のEXITが遅れていたんです。その一方、既存出資者(以下、LP投資家)は予定通りの償還を求めていました。

そこでLP投資家の出資持分を現金化して分配するため、セカンダリー取引を模索しました。しかし、日本にはLPセカンダリー投資に特化したPEファンド(以下、セカンダリーファンド)が少なく、売却先を探すのに苦労しました。ニーズはあるのに、受け皿がない。売り手としてのそんな経験から、セカンダリー投資事業への本格参入の検討を始めました。

鈴木:私がWMパートナーズに入社したのは2021年ですが、当社のメンバーは以前からセカンダリー投資を行っていました。日本アジア投資の一部門だった2002年から始まり、70ファンド以上の投資実績を積み上げています。また「近年のPEファンドの市場拡大につれて、セカンダリー取引の需要も拡大してくるだろう」という手ごたえを感じていました。

ただ、以前はひとつのファンドでグロース・キャピタル投資とセカンダリー投資の両方を行っていたんです。そこで今後のLP投資家の流動化ニーズを見据え、大規模なセカンダリーファンドの立ち上げを構想。業界にインパクトを与える100億円規模で組成するために、2020年頃から共同運営のパートナーを探していました。その後、当社代表の徳永とAICの佐村社長が意気投合したそうです。

【協業の理由】 相互補完とカルチャーフィット

もともとAICは単独でセカンダリー投資事業への本格参入を検討していたわけですよね。なぜWMパートナーズと協業したのですか?

中浜:当社はファンド・オブ・ファンズ運用の実績は豊富ですが、セカンダリー投資の実績が非常に限られています。佐村をはじめとして個人レベルでの経験はあっても、単独でチームを立ち上げられるほどのメンバーがそろっていませんでした。一方、WMパートナーズは国内における同分野のパイオニア。その専門的な知見や経験を補完したいと考えました。

両社の強みを活かすためには、相性も大切です。2020年から本格的な協議を始めて、互いの組織文化や投資スタンスなどを確認。「このチームなら必ずうまくいく」と確信し、翌年9月にセカンダリーファンドを設立しました。

鈴木さんはセカンダリーファンド設立の2ヵ月前にWMパートナーズへ入社しています。その経緯を教えてください。

鈴木:以前は証券会社に勤務し、PEファンドへのLP投資などを担当していました。その投資先ファンドのひとつがWMパートナーズでした。投資家の立場でセカンダリーファンドの構想を聞き、そのコンセプトに共鳴しました。

実際、LP投資の流動性は低いんです。10年前後のファンド運用期間が終わるまで、出資持分を抱え続けなければいけません。でもポートフォリオを適切に組み直すためには、途中でアセットを入れ替える手段があったほうがいい。その選択肢として、日本でもセカンダリー取引が広がるべきだと考えていました。ずいぶん前から、海外では一般的ですから。

LP投資家として、課題を実感していたわけですね。

鈴木:ええ。ただし、最初に構想を聞いたときは情報交換レベルです。出資の可能性を確認されるくらいのニュアンスでした。その後、さまざまな縁とタイミングが重なり、2021年7月に参画する形になりました。

鈴木氏

【運営体制の構築】 本音で語りあい、両社のズレを防ぐ

ファンドの共同運営は新たなチャレンジです。どのように体制を構築したのですか?

鈴木:共同運営はジョイントベンチャーのようなプロジェクトです。いまでこそ両社合わせて10名弱のチームになりましたが、最初は数名でスタート。中浜さんと毎日話しあい、運営ルールや投資のフローなどを調整していきました。

中浜:円滑に体制を構築できたのは、鈴木さんの人柄のおかげですね。私が失礼な言い方をしたときも、感情的にならずに受け止めてくれました。結果として本音で語りあうことができ、両社のズレを未然に防げました。

鈴木:お世辞でしょ?

中浜:いや、ホントに思っています。

鈴木:私が入社直後だったのも、よかったかもしれません。WMパートナーズの考え方に染まっておらず、両社を等距離で客観視できたからです。そんな中間地点に立って、互いの優れた点を融合していきました。

【ファンドレイズ】 両社の総力を結集して、全方位にアプローチ

2022年9月にはファンドの募集を完了しています。100億円もの出資を1年間で集めた方法を教えてください。

鈴木:当初の投資家は三井住友銀行と日本政策投資銀行です。アンカー投資家として大手金融機関が趣旨に賛同してくれましたが、100億円が高い目標であることに変わりはありません。

中浜:私たちのように、日本のセカンダリー市場にフォーカスした国内プレイヤーは他にいません。他ファンドの方法論は直接的な参考にならないので、全方位にアプローチしました。都市銀行、地方銀行、信託銀行、信用金庫、証券会社、年金・共済組合、事業会社、資産管理会社など、行けるところは全部回りましたよ。

鈴木:当社は既存ファンドを運営しているので、多数の投資家とつながりがあります。また、AICは多数のファンド運営者(以下、GP)と良好な関係性を築いています。両社の株主からのバックアップも受けて、総力を結集しました。

中浜:コロナ禍なので、オンラインとオフラインの商談を併用しました。もちろん、最後は対面のコミュニケーションが重要です。ファンド運用のパフォーマンスなどを説明するだけではなく、私たちの想いを直接伝えました。ともに日本のセカンダリー市場を創りましょうと。

中浜氏

鈴木:私自身もセカンダリーファンドの構想に共鳴した人間です。流動化ニーズのあるLP投資家ならば、ファンド出資にも興味を示してくれると考えていました。

【100億円の目標へ】 地道な啓蒙活動と分配実績の明示

実際、どのような投資家がファンドに出資したのですか?

鈴木:初期に入っていただいたのは、多様な投資をグローバルに展開する機関投資家です。そういった方々は海外市場の動向に詳しく、もともとセカンダリー投資をご存じ。大規模な専門ファンドの必要性も理解してくれました。

とはいえ、日本ではセカンダリー投資の認知度が低い。ご存知なかった方は「他にどういう投資家が入るんですか?」と様子見する傾向がありました。そこから、もう一歩踏みこんでもらうのに苦労しましたね。

中浜:セカンダリーファンドの特徴のひとつは回収の速さです。実際、募集期間の後半には投資の成果が出て、初期の出資者に分配を行っていました。そういった実績を示しながら、足踏みする投資家の理解を醸成していきました。

鈴木:案内資料もたくさん作りましたね。「たとえ出資してもらえなくても、セカンダリー投資の啓蒙活動になる」と自らに言い聞かせ、地道に説明を続けました。

中浜:なんとか100億円の目標額を達成しましたが、メドが立ったのは最終盤になってからです。それまでは胃の痛い日々を過ごしていました(笑)。

【投資案件の発掘】 GPの協力も得ながら、LPのニーズを把握

ファンドの募集活動と並行して、投資案件の発掘も進めていたわけですね。

鈴木:はい。当ファンドにとってLP投資家は出資を募る対象であり、流動化に課題を抱える潜在顧客ともなりえます。つまり、ターゲット層が重なっているんです。当ファンドへの新規出資は消極的でも、他ファンドの出資持分の早期売却を望む投資家もいるでしょう。そういったニーズを丁寧にヒアリングしながら、募集活動と案件発掘を同時に進めていました。

中浜:AICの強みを活かして、異なる角度からもアプローチしました。それはGPとの強固な関係性。GPはLP投資家の相談相手として、出資持分の流動化ニーズをいち早くキャッチできます。そこで「こんな相談が寄せられたら、私たちに紹介してください」とお願いして回りました。

LPセカンダリー投資の標準的なパターン(クリックで拡大)

【セカンダリー投資の実例】 画期的な“継続ファンド”設立

セカンダリー投資の具体的な事例を教えてください。

鈴木:象徴的な案件のひとつを紹介します。「継続ファンド」という日本においては画期的なスキームを使い、新たなセカンダリー投資の形を実現させた事例です。

継続ファンド(Continuation fund):LP投資家の出資持分を流動化するスキームのひとつ。GPが運営する既存ファンドの保有資産の一部を、同じGPが組成した継続ファンドが譲受する。PEファンドの運用後期において、GP・LP投資家・投資先それぞれの異なるニーズに応えるソリューションとなる

中浜:ことの発端は、先ほど話したGPへのアプローチです。とあるGPに運営するファンドの状況を伺ったところ、投資先企業のEXITが遅れているという。継続保有すればバリューアップが望めるのに、ファンドの満期が迫っているため、対応に悩んでおられました。

従来の選択肢は既存ファンドの運用期間を延長するか、投資先企業の株式を手放すしかありません。でも前者の場合、すべてのLP投資家から同意を得るのは難しい。後者の場合、LP投資家は納得しますが、GPと投資先にとって不本意です。こうした問題意識から、そのGPも海外の「継続ファンド」の事例を研究されていました。そのような経緯があり、各ステークホルダーの異なるニーズに応える同スキームの活用について協議を重ねました。

【先駆的スキームの構築】 法務・税務・各種条件を綿密に検討

継続ファンドの協議開始から設立まで、順調に進みましたか?

中浜:ファンドの設立までは1年近くを要しましたね。参考にできる取引事例が国内に存在しなかったからです。GPの側でも初めての試みでしたので、LP持分の譲渡価格や手法について、丁寧にステークホルダーの理解を得る必要がありました。

鈴木:法務・税務・各種条件などについては、綿密な検討が必要です。双方の知見を持ち寄りながら、一歩ずつステップを踏んでいきました。最終的には着地点を見出し、最適なスキームを構築。2022年10月に継続ファンドを設立しました。

その後の反響はいかがでしたか?

鈴木:本件実行後に多数のGPからお問い合わせをいただきました。「同じような状況なので、相談したい」「継続ファンドというスキーム自体を知らなかったので、詳しく教えてほしい」など、10件以上の引き合いがありましたね。

中浜:継続ファンドではありませんが、GP経由でご連絡をいただき、LP投資家の出資持分を買い取ったケースもありました。セカンダリーファンドは多様なニーズに対応できるので、ご相談が増え続けています。

LPセカンダリーの提供価値(クリックで拡大)

【今後の抱負】 セカンダリー投資のリーディングカンパニーへ

最後に、今後の抱負を聞かせてください。

中浜:私たちAICのミッションは、PEファンドなどの低流動性オルタナティブ投資の発展に寄与することです。2002年の設立当初は、PE投資自体の認知度が低い時代でした。そこから市場が発展し、PE投資が一般化。さらなる付加価値を提供すべき段階になりました。

そのひとつが今回のセカンダリー投資です。初号ファンドながら100億円の出資をいただき、投資家の皆様の大きな期待を感じています。同時に大きな責任も感じているからこそ、このファンドをなんとしても成功させ、セカンダリー市場の発展につなげていきたいと考えています。

そのためにもWMパートナーズと連携し、投資の実績を積み上げていきます。ビジネスパートナーとしてほどよい緊張感を保ちながら、さまざまな形でビジネスを進化させたいですね。

鈴木:国内のセカンダリー市場は黎明期です。当ファンドの投資実績は増えてきましたが、潜在需要の大きさから考えると、まだまだ足りません。近い将来には、さらに大規模な新ファンドの組成も見据えています。

今後もAICと相互に補完しながら、ペースを落とさずに走り続けるつもりです。そうやってリーディングカンパニーとしてのポジションを確立し、セカンダリー市場のさらなる発展に貢献したいと考えています。

Profile

鈴木 祥平(すずき しょうへい)

2006年、株式会社みずほフィナンシャルグループに入社。株式会社みずほ銀行での法人営業を経て、2011年より、みずほインベスターズ証券株式会社(現:みずほ証券株式会社)にて新興市場上場企業に対する市場変更、スタートアップ企業に対する上場支援、企画業務などに従事。2014年からは、みずほ証券株式会社にてPEファンドへのLP投資、スタートアップ企業への直接投資、GP会社設立、事業会社に対するオープンイノベーション推進・コーポレートベンチャーキャピタル設立支援、企画業務などに従事。2021年7月、WMパートナーズ株式会社に参画。同年9月、LPセカンダリー投資の専門ファンドをエー・アイ・キャピタル株式会社と立ち上げる。



Profile

中浜 優一(なかはま ゆういち)

みずほ信託銀行株式会社にて、個人マネーファンドを活用したストラクチャードファイナンスの組成・投資業務に従事。みずほコーポレートアドバイザリー株式会社(現:株式会社みずほ銀行)にて、国内上場・非上場企業やPEファンド向けM&Aアドバイザリー、財務アドバイザリー業務に従事。2018年、エー・アイ・キャピタル株式会社に入社。インベスト部門全体、およびセカンダリー投資関連業務を統括している。