since 2013
WMパートナーズ株式会社/マネージングパートナー 徳永 康雄
独立系プライベート・エクイティ(以下、PE)ファームのWMパートナーズ。一般的なベンチャー・キャピタル(以下、VC)・ファンドやバイアウト・ファンドと異なり、新たなステージへの成長戦略を模索する中堅中小企業に対するグロース・キャピタル投資で独自の路線を追求しています。また、LPセカンダリー投資の分野においても国内の先駆的な存在です。
2023年7月、同社は設立10周年を迎えました。これまでどのような道のりを歩み、独自のポジションを確立したのでしょうか? そして、次の10年はどこへ向かうのでしょうか? 代表取締役社長の徳永康雄氏に話を聞きました。
まずはWMパートナーズの事業内容を聞かせてください。
当社はPEファンドを組成して投資活動を行う投資運用会社です。おもな投資の種類は「グロース・キャピタル」と「LPセカンダリー」に大別されます。
グロース・キャピタル・ファンドは、VCファンドとバイアウト・ファンドの中間的な存在です。VCの主な投資対象は、ユニコーンをめざすような創業期のスタートアップ企業。そしてバイアウト・ファンドの主な投資対象は、安定した事業継続をめざす成熟期の中堅中小企業です。
一方、私たちの主な投資対象は、スタートアップと中堅中小企業の間に位置する“大人ベンチャー”。成長志向が強く、設立10年から20年ほどの企業です。じつは成長期のベンチャーや中堅中小企業に伴走する投資ファンドは少なく、ここにWMパートナーズの独自性があります。また、バイアウト投資とマイノリティ投資の両方に対応できる点も特長です。
もうひとつの「LPセカンダリー」とは何ですか?
一般的なPEファンドは運用期間を10年前後に設定しています。しかし、ファンド運用期間中に既存出資者(以下、LP)のファンド出資持分に流動化(現金化)ニーズが生じる場合があります。こうしたファンド出資持分を流動化するのが、LPセカンダリーの取引です。つまり、事業会社や金融機関などが保有しているファンド出資持分を二次的流通として引き受けるわけです。
私たちのメンバーは2002年からLPセカンダリー投資を行っており、国内における同分野のパイオニアです。そして2021年には、PEファンドへの投資で実績豊富なエー・アイ・キャピタル(以下、AIC)とLPセカンダリー投資の専門ファンドを100億円規模で組成しました。国内でこれほど大規模な専門ファンドはめずらしく、日本のLPセカンダリー取引をリードしています。
グループ会社の事業についても教えてください。
WM Fund Associates(以下、WMFA)というグループ会社において、ファンド運営者(以下、GP)のミドル・バックオフィス業務をサポートしています。ファンド組成、資金管理、決算書作成といった会計業務・一般事務のアウトソーサーですね。
WMパートナーズと同じく、WMFAも2013年に設立しました。現在は約50のGP・100以上のファンドを支援しており、国内におけるファンドアドミニストレーションのパイオニアとして認知されています。いわば同業他社を支援しているので、グループ全体としては非常にユニークなポジショニングです。
ここからは10年間の歩みについてお聞きします。そもそも、なぜWMパートナーズを設立したのですか?
当社は日本アジア投資(以下、JAIC)からスピンアウトして生まれました。その発端は10年以上前にさかのぼります。 2000年代にJAICは「VC事業をコアとしたユニークな金融グループの形成」 を掲げていました。VC事業については、日本国内にくわえて米国シリコンバレー・東南アジア・中華圏などにグローバル展開し、PE事業も幅広く展開していました。
しかし、リーマン・ショックの影響を受け、当時のJAICは大きな損失を抱えました。事業の選択と集中を余儀なくされるなか、事業を継続するためにはどうすればいいか? そこで会長の松本らと当社を設立し、外に出ることにしたのです。
世界的な金融危機という大きなうねりを経て、WMパートナーズが生まれたと。
ええ。独立に際して、当時運営していたファンドのLPの皆様からも応援していただきました。もちろん、個人的な功名心や自己実現のために起業したわけではありません。だからこそ主観的ではなく、業界全体を俯瞰的にとらえられます。そこが当社の特質につながっているのでしょう。
たとえば、PE業界が大きく発展していくなかで、GPやLPが困っていることに応えていく。海外に先例はあるが、まだ日本では誰もやっていない空白の領域へ進出する。自前主義に固執せず、他社と積極的に連携していく。こういった「WMらしさ」の原点には、会社設立の経緯が影響しています。
また、設立時に日本政策投資銀行(以下、DBJ)の支援を受けることができ、非常によいパートナーに恵まれました。DBJは政府系金融機関なので、私たちに“色”がつかない。もしも特定の事業会社やメガバンクに頼っていたら、WMFAやLPセカンダリー投資はうまくいかなかったでしょう。ニュートラルな立場を維持できず、顧客層が限定されますから。
これまでの歩みのなかでターニングポイントはありますか?
大きな転機はふたつあります。ひとつはバイアウト投資の開始です。
2013年ごろから独立系のVCファンドやバイアウト・ファンドが急増し、ファンド間の競争が激化していきました。当社としても独自性が求められる。そんな問題意識を抱えていたとき、本格的に成長企業のバイアウト案件に取り組みました。
従来のバイアウト・ファンドは成熟期の安定企業を好むため、投資の空白地帯が生じていました。一方、すでにアメリカでは成長企業のグロース・バイアウト投資が進んでいる。数年前から案件の相談は来ていたので、いち早く当社が取り組めば、日本で独自のポジションを確立できるチャンスでした。
しかしながら、マイノリティ投資とバイアウト投資はまったく別種目です。経験豊富な人材がいなければ、軽々に取り組めません。その後、もともとJAIC時代の同僚であり、バイアウト・ファンドで活躍していた井芹と再会しました。彼も同じ問題意識をもっていたことから、2017年に当社へ参画。翌年、グロース・バイアウト投資を実行しました。ここが転機となり、中堅中小企業に対する支援の幅がさらに広がりましたね。
従来型のバイアウト投資とグロース・バイアウト投資の違いは何ですか?
投資対象と支援のスタンスが異なります。従来型バイアウト投資の主な対象は、小売・流通・製造といったレガシーな中堅中小企業です。LBOローンを活用してリターンを得るので、安定的なキャッシュフローを重視します。
一方、当社のグロース・バイアウト投資の主な対象は、マイノリティ投資と同じく、成長志向の“大人ベンチャー”です。人材・資金・ノウハウの提供で企業価値を向上させ、リターンを得ます。数年後の高成長をめざすため、一時的に利益を減らしてでも先行投資を行う場合もあります。だから、一般的なバイアウト・ファンドと考え方が違うんです。
成長支援のスタンスはVCに近いわけですね。では、次のターニングポイントを教えてください。
LPセカンダリー投資の専門ファンドを100億円規模で組成できたことです。
セカンダリー投資自体は、従来からファンドの一部で行っていました。ただ、海外のLPセカンダリー・ファンドは1兆円超える規模にまで発展しています。その一方、国内のLPセカンダリー市場は発展途上で認知度も低い。業界にインパクトを与えるためには、100億円規模の専門ファンドを組成する必要がありました。
とはいえ、当社単独で100億円もの原資を集めるのは容易ではありません。そこで共同運営のパートナーを探していたところ、AICの佐村社長と意気投合。国内のLPに流動性を提供すれば、日本のPE市場全体の発展に大きく寄与できると。当社の株主であるDBJ、AICの株主である三井住友銀行の賛同を得て、ファンド設立へ動き出しました。同時並行でチーム強化に取り組み、2021年7月に鈴木(祥平)が参画。同年9月、ついにファーストクローズを迎えました。
心強いパートナーと人材を得て、LPセカンダリーの受け皿が整ったと。
近年はファンドの数だけでなく、それぞれの規模も大きくなっています。また、金融機関、年金機構、事業会社など、出資者の数と種類も増えています。
その一方、東証の再編、株式上場(IPO)審査の厳格化、新型コロナウイルス感染症の影響などにより、PEファンドの投資先のエグジットが遅れ、当初の想定よりも保有期間や運用期間が長期化する傾向にあります。結果としてGPとLPの間で考え方に相違が生じることが増え、LPセカンダリーの取引ニーズは高まっています。LP側のアロケーション変更というニーズもありますね。
経営において、大切にし続けてきたことはありますか。
「WMらしさ」の追求です。それはPEファンド業界において、ユニークであること。グロース・バイアウト投資やLPセカンダリー投資など、新たな取り組みを積み重ねていくうちに、私たちのアイデンティティーが明確になっていきました。
また、一つひとつの投資判断においても独自性を大切にしています。大手ファンドのように、業界の人が知っている人気企業に投資するよりも、知る人ぞ知る優良企業へ投資したい。こういった認識をメンバーと共有した結果、オンリーワンのポジションを確立できました。
ただし、独自性と独りよがりは異なります。あらゆるステークホルダーに誠実に対応し、外部環境の変化にすばやく適応することが大切です。実際に「こんな存在があったらいいよね」という出資者や同業者の期待に応えた結果、新たな領域を開拓できた側面もありますね。
組織づくりにおいて、重視しているポイントを教えてください。
メンバーが活躍しやすい環境の整備です。PEファンドの業務は専門性が高く、各分野にスペシャリストが求められます。したがって経営者である私の役割は優秀な人材を集めて、適材適所に配置すること。そして権限を委譲しながら、足りない部分をサポートすることです。バイアウト投資は井芹、LPセカンダリー投資は鈴木(祥平)がチームの中核となり、少数精鋭で機動力を高めています。
また、組織の多様性も大切にしています。たとえば、当グループのメンバーは6割以上が女性です。WMFAの代表取締役、WMパートナーズの管理部長など、役員・管理職クラスでも多くの女性が活躍しています。さらに、リモートワークを推進。コロナ禍以前より、ドバイ・沖縄・岩手など、遠隔地に住むメンバーも働きやすい環境を整えています。
2023年7月、WMパートナーズは設立10周年を迎えました。創業経営者として、どのように感じていますか?
当社の創業メンバーは5名、最初のファンドは62億円でスタートしました。それが現在ではグループ全体で50名超、ファンドの累計運用額は400億円を超えました。10年前には、まったく想像できませんでしたね。
ここまで成長できたのは、当社にかかわるすべての方々のおかげです。理解のある出資者、すばらしい投資先経営者、志を同じくするパートナー企業など、関係者の皆様には感謝しかありません。
また、優秀なメンバーにも恵まれました。経営者がどんな理想を掲げても、リターンを出さなければファンドとして評価されません。メンバーが一つひとつ結果を出してくれたからこそ、10年という時の洗礼に耐えられたのでしょう。
最後に、次なる10年の展望を聞かせてください。
まずはグロース・キャピタルとLPセカンダリーのファンド運用に注力します。いずれも100億円規模で組成できたので、今後は投資を促進していく必要があります。コロナ禍を経て変化と成長を求める企業、ファンド満期にお困りのGP、ファンド出資持分を流動化したいLPなどを支援していきます。
そして、グループ全体としては新たな事業に挑戦したい。PE業界の発展過程において、独立系でニュートラルなポジションだからこそ、できることがあるはずです。これからも「WMらしさ」を大切にしながら、PEファンド業界の発展に貢献したいと考えています。
たとえば、最近はSDGsやESG投資の波が押し寄せています。この市場拡大につれて、「あったらいいよね」という新たなニーズが生まれるかもしれません。そんなマーケットの隆盛を俯瞰的にとらえて、WMらしい取り組みを探ります。
改めて振り返ると、私たちは優秀なメンバーの参画やパートナー企業との連携によって、事業を創造・推進してきました。次の10年においても、新たな縁や出会いがWMグループの可能性を広げていくでしょう。
立教大学を卒業後、2003年に日本アジア投資株式会社(JAIC)に入社。2013年までの10年間にわたり、新規投資や投資先のハンズオン・回収に携わる。投資以外では、新卒採用や社長室を経験。2013年にWMパートナーズ株式会社を設立し、取締役社長に就任。2018年に代表取締役社長に就任。